【レズ小説】消えた女生徒と囚われの女刑事
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「…大丈夫です。データの復旧は直ぐ終わります」
PCのディスプレイを見ていた女の子に言われた正面の女教師は、安堵して天井を見上げた。
彼女の名は神埼梨緒-かんざきりお-ここ東雲女学院ではちょっとした有名人である。
東雲女学院はスポーツに力を入れている事で全国規模で志望者が多い。
しかし梨緒はスポーツに直接の関わりはないが、練習プログラムの組み立て方は専門家が感心する程の能力がある。
しかもそれだけではなく、梨緒は幼少の頃より趣味でPCを使っていた為精通しており、以前学院のメインPCがハッキングされた事件があったのだが、それを解決した実績があった。
この能力は半端なものではなく、学院の外からも依頼されたりしている。
なので他のクラスや学年、時には教員からも相談を持ち掛けられたりする事も少なくなかった。
「もうそんな時間なのね」
時計を見た梨緒は愛用のPCを専用の鞄にしまい席を立った。
「また女子寮で家出ですって」
最近東雲女学院で、女子寮の生徒が忽然と消える出来事がたまに起きていた。
最初は犯罪絡みではと噂されたが、後に学院側が発表した結果報告は、《ストレスによる家出》とあった。
女学院は他の学校組織同様、官憲の手が安易に及ぶことはない。
あくまでも学院側の発表を鵜呑みにする他なく、学院の外では根拠のない憶測が僅かに流れるだけで終わった。
「これで3人、みんな不安なのかなあ」
「いなくなったのは下級生も込みでしょう?理由は判りっこないわよ」
誰もが勝手に噂している中、梨緒だけは関心もなく食事を摂っていた。
「神崎さん」
そんな梨緒の元へ現れたのは、美人保険医として評判の御園円だった。円は梨緒をキッと睨むと言葉を続けた。
「余計な事に興味本位で首を突っ込んでは駄目よ」
「判ってます。頼まれもしないのに探る気もありません」
「それなら良いけど…家出する根気のない者は切り捨てるのが当女学院の方針です。追って欲しくないから痕跡をワザとあってないようにしているとあたし達教員達は考えてます」
「だからお財布は消えても着の身着のままでと仰るんですか?」
「ええそう、だから興味を持っては駄目よ。良いわね」
円はそう言い残して立ち去った。残された梨緒は半ば唖然として円を見送った。
『あれが教職員の態度?生徒が消えたって言うのに…まあココのカリキュラムは他校と比べると厳しいみたいだし、それで重圧に負けちゃったのかも』
梨緒は冷めたモノの見方しかしない。というより出来ない不器用な所がある。
無論、梨緒もそれで良いとは思っていないが、どうしても達観した見方が多く、周囲からは歳の割に冷めていると見られていた。とはいえ他人から『するな』と言われると余計にやりたくなる面もあり、円の懸念通り色々と首を突っ込む事も何度かあった。
『家出か行方不明か…まずは探らせてもらおっと』
そう決意した梨緒は、好物のカレーを平らげた。
深夜近く、梨緒は自宅のマンションで書類を抱えていた。
「さて…と…」
梨緒は少し嬉々として山のような資料に目を通した。こうして謎になっている事を調べるのは梨緒の尤も好きな瞬間だった。
「…うん」
資料を置いた梨緒は専用鞄から愛用のPCを取り出してテーブルで起動した。
「…」
目で追いきれない速度でキーボードを叩き、梨緒は集中したままモニターを凝視した。
「…これは…!」
ディスプレイを見ていた梨緒は思わず身を乗り出した。
『女の子達が行方不明になったと同じ頃、停泊中の船の積荷に3人のイニシャルと同じ彫像がある!…偶然!?』
更にキーボードを叩く。
『船の名は…《皇帝》…』梨緒は手を止めて天井を見上げた。
「偶然とは思えない…わ」
そこまで考え、梨緒はこれが単なる家出ではなく犯罪の疑いが濃厚な事に身震いした。
『積荷の依頼主は…山野洋子?』
何処かで聞いた名前に、梨緒はキーボードにヤマノヨウコと打ち込んだ。
「教員と同じ名前!?」
梨緒はキーボードを叩き、学院の資料を表示させた。
『…犯人だったら自分の名前を堂々と使うとも思えないわね』
利緒は一旦冷静になって考え込んだ。
『…これは警察の…ううん動かないわね。ハッキングは犯罪だし違法な手段の結果で得た証拠じゃ動かない組織だものね…』
「…」
色々考えた結果、梨緒は警察のPCにデータを送りつけ、あわよくば動いてもらおうと考えた。
『他力本願だけど、小娘のあたしより話が通り易いかも…』
不確実だがとりあえずやる事はやろうと梨緒は謝罪文も込みで送りつけた。
『…送信っと…ふう』
利緒はとりあえず警察に託して眠る事にした。
凄い二人組だこと!(*^o^*)